約10年ぶりの金利引下げの理由は?チャット相場も

この記事は約6分で読めます。

2020年3月12日、ミャンマー中央銀行(CBM)は約10年ぶりとなる金利引下げに踏み切りました。

CBMは2012年3月以降、中銀金利を10%に保っており、これを基準に市中銀行の預金金利の下限は8%、担保あり貸出しの上限は13%となっていました。それが今回引き下げられ、今回及びその後の中銀金利の引下げ幅は以下の通りです。

  • 3月12日 -0.5 %
  • 3月24日 -1.0 %
  • 4月27日 -1.5 %

(注:預金金利、貸出金利に関しては多少微調整がなされていますがここでは触れません。)

中央銀行は、今回の金利引下げは新型コロナウイルスが与える経済への悪影響を踏まえての措置としています。

意図はその通りでしょう。ただし、ミャンマーの金融市場の現状を踏まえると、単に金利を下げただけで、実際に効果があるかどうかには大変疑問があります。

この点については以下で掘り下げますが、それはそれとして、これまでのミャンマー政府及びCBMの行動原理から見ると、むしろ約10年間動かしていなかった(若しくは動かすことができなかった)金利をとにもかくにも動かすことができた、という事実自体が今後の金融市場にとって重要なのではないかと思っています。

つまり、これで今後、金利を上げるにせよ下げるにせよ、他の金利誘導方法を模索するにせよ、当局者は心理的にアグレッシブなことをやりやすくなるのではと考えるからです。今後の金融市場改革、要チェックです。

金利引下げの背景とは?

新型コロナへの不安、そしてそれへの対策です。

一般に、ミャンマーの人たちは保守的、ミャンマー政府も保守的、と言われています。このことから、CBMとしても当然、とにかく何らかの対策を打たなければならないと考えるのはとても自然たと思います。

金利の引き下げについては、高インフレと預金者離れを警戒してこれまで景気があまりよくない中でも引き下げてこれなかったというのが大方の見方と思われます。それを反映して、コロナ対策とはいえ、3月の最初の利下げは0.5%という極小の引下げにとどまったのだと思います。(怖くて一気にはできなかった)

その後、コロナの影響が全世界で大きくなり、ミャンマー経済への打撃も相当大きくなることが確実との感触を受け(そして国内で利下げ幅が小さすぎるとの反応もおそらく受け)、4月に大胆な緩和に踏み切ったということかと思います。

金利は現在のところ合計3%の引下げで、引下幅自体は、世界的な経済危機からみれば(ミャンマーはもともと高いので)この程度の金利引下げはおかしくありません。これにより国内でCBMのコロナ対応をアピールする狙いもあるはずです。

ちなみに、CBMは4月24日、2017年7月に出した一連の銀行健全化策に関するdirectiveの実施開始を、2020月8月から2023年8月に延期しています。以降で掘り下げますが、これは利下げ以上に効果がありそうです。

利下げの影響は?

金利引下げの影響は限定的ではないかと思います。

その一つ目の理由は、そもそもミャンマーの銀行に土地など確実な担保なしで貸出をする能力が不足していることがあります。

金利が下がれば借りたい人は増加することはほぼ確実ですが、銀行の融資能力が著しく低いこと、これまで既に、担保があって貸せる人には既に貸してしまっていると思われること、不動産など主な担保価格は未だ低い水準にとどまっていることから、一定程度増えるにせよ、劇的に貸出を増やすのは難しいと思われます。

二つ目の理由は、もともと不良債権が多かった銀行セクター及びその健全化のための規制の実施局面だったことがあります。

上記の2017年7月に出された一連の銀行健全化策の中で、銀行は全体として貸出に慎重な姿勢となっている状況です。

例えば、2017年時点でミャンマーではoverdraft:当座貸越による貸出が全体の融資の70%程度で、このうちの20数%~15%は不良債権(大体半年以上元本も金利も返済がない)と言われていたところ、この当座貸越を2020年8月までに20%以下にし、それ以外は3年未満のterm-loanに変換することが求められています。

Term-loanに変換できるのは当座貸越のうち不良債権でない債権のみともされています。併せて、資産査定・分類を行い、必要な引当金を積むことも求めています。

今後のミャンマー経済への含意は?

まず、コロナ対策としては、ミャンマー政府が4月27日に包括的な経済対策を発表しています。詳しくはhttp://myankabu.com/2020/05/08/cerp/で丁寧に解説されているのでご興味のある方は読んでみてください。

CBMの緩和策との関連でいうと、個人的には、健全化施策の期限延期プラスCBMが銀行に具体的に貸出を増やしてよいというメッセージを発っせれば、銀行が貸出増加に動く可能性はあるかと思います。

ただし、上記一つ目の理由のそもそもの銀行の融資能力の件からすると、やはり貸出しの増加は限定的となる気がします。日本だったら担保基準を緩めるなどより踏み込んだ特例措置が検討されると思いますが、ミャンマーの銀行はそもそも体力がなく、そういうことをすると銀行自体が経営不安に陥りかねないのでそこまでのことはやらないのではと思いますし、やるべきでないと思います。

実体経済、生産活動を如何に継続させるかであり、やはり、財政での対応が本筋となってくるはずです。この点、政府の経済対策がスピーディーに執行されるか、財政赤字がどのように受け止められるか、今後も要チェックです。

補論:今後のチャット相場への影響は?

ちなみに、2019年末以降、チャット高への動き見られ、それが続いていましたが、3月以降の金利引下げで、通常であれば、チャット安方向に動くことが想定されるはずですが、特段そのような動きには今のところなっていません。

この点、ミャンマーはかなり厳格な資本規制があるので、投機や短期的な資金移動はほとんど難しく、チャット金利が低くなったからといって、いきなりチャットを売ってドルを買う動きが増えるということは考えずらいのではないかと思います。ただし、今後生じる貿易・所得収支で得たドルを売らずに持っておく人が増える(ブラックマーケットでの資本流出が増える)といった形で緩やかにドル売りが減少する(ドル売り・チャット買い需要が減る)という可能性はある気がします。

元々、過去のパターンを見ると、例年1月、2月にはチャット高に振れる傾向がありますが、今年はそれ以上に昨年末からすう勢的にチャット高になり今も続いている状況です。

色んな憶測があるようですが、例えば、ミャンマーで金への逃避が起きていて、国内の金市場はチャット建てなのでドルをチャットに代えているという説、これまでドルでタンス預金していた人たちが昨今のチャット高にしびれを切らしてドル売り・チャット買いに走っているという説などがあるようです。(本当かどうかはわかりません。)

今後のチャット動向としては、例年5月以降雨季にはチャットが減価する傾向があること、チャット金利の低下、これまでのチャット高の揺り戻しの可能性も考えると、チャット安方向というのがメインシナリオだと思います。

1+
タイトルとURLをコピーしました