ミャンマーの会計・監査制度の整理

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はじめに

ミャンマーでは、1962年の軍事クーデター以降のネウィン政権において、主要な産業が国有化されました。その後、1988年の民主化運動と市場経済化への政策転換により、民間による企業活動、経済活動が奨励されるようになりました。

こうした経緯から、ミャンマーの会計・監査制度として歴史的に重要であったのは政府や国営企業の会計・監査であって、民間企業の会計・監査制度の必要が生じたのは最近になってのことです。今でも、ミャンマーでは国営企業の経済に占める割合が高く、世界銀行(2016)によれば、所得税の三分の一、商業税の五分の一は国営企業によるものと指摘されています。

ミャンマーの会計・監査制度の現在の姿は、政府・国営企業の会計・監査の必要と密接に結びついており、今後期待される民間企業活動の増大とそのために不可欠な会計・監査能力の向上にとってボトルネックになる可能性があります。

以下では、歴史的経緯を踏まえて、現在の会計・監査制度を整理することで、今後の課題をあぶりだすことを狙います。ざっくり整理した図をとりあえず。以下でも解説します。

(出所)筆者作成

会計・監査の対象

まず、ミャンマーでは、誰が、会計・監査の対象になるか、世界銀行(2017)を参考に整理します。特段の注書きがない限り、データは全て世界銀行(2017)からの引用です。

国営企業(State-Owned Economic Enterprises, SEEs)

1989年、外国企業法(State-Owned Economic Enterprises Law 1989)により、チーク材、石油・天然ガス、宝石・貴金属といったセクターに関しては、基本的に国営企業又は国営企業が他の民間企業・外国企業と行うジョイントベンチャーしか事業を行ってはいけないことが明確にされました。2016年9月時点では、32のSEEsが存在しています。

世界銀行(2017)

上場企業(Listed Companies)

2013年に制定された証券取引法に基づき、2015年にヤンゴン証券取引所が開設されています。現在(2020年6月末時点)で6社が上場しています。

Company name
Listed Date
First Myanmar Investment Public Co., Ltd.(FMI)25th Mar. 2016
Myanmar Thilawa SEZ Holdings Public Co. Ltd.(MTSH)20th May 2016
Myanmar Citizens Bank Ltd.(MCB)26th Aug. 2016
First Private Bank Ltd.(FPB)20th Jan. 2017
TMH Telecom Public Co., Ltd.(TMH)26th Jan. 2018
Ever Flow River Group Public Co., Ltd. (EFR)28th May 2020

未上場公開企業(Unlisted Public Companies)

2016年で約260社の未上場公開企業が存在しています。未上場公開企業には一般の投資家が多くいることが想定されており(必ずしもそうである必要はない)、店頭市場において、電子化されていない株式を売買することが可能となっています。

このカテゴリには、軍関連の企業群が含まれ、多くが1990年に設立されたUnion of Myanmar Economic Holding Limited (UMEHL) や1997年に設立された Myanmar Economic Corporation (MEC)に所有されています。

私企業(Private Companies)

2016年時点で、約48,000社の私企業が存在しています。ほとんどが中小企業と分類されますが、一部には、現地の有力財閥企業が含まれます。

中小企業(SMEs)

2015年2月時点で、ミャンマー企業の87.17%が中小企業と分類されています。2015年、中小企業発展法が成立し、中小企業が定義され、こうした企業に対して、様々な支援を実施することが規定されました。

個別の業法により規制される企業

基本的には上記のカテゴリに含まれるものの、銀行、金融会社、マイクロ金融機関、保険会社、証券会社などといった業種は、個別業法によっても、各企業が従うべき基準が規定されており、これにはコーポレート・ガバナンス、開示に関するものなども含まれます。

会計・監査制度の沿革

ミャンマーには、会計・監査制度を司る規制官庁として、ミャンマー連邦監査長官府(Office of the Auditor General of the Union)とミャンマー会計評議会(Myanmar Accountancy Council)が存在しています。また、非営利の専門家組織としてミャンマー公認会計士協会(Myanmar Institute of Certified Public Accounts)があります。以下、主に、各官庁のホームページより、それぞれ沿革概要を確認した上で、法律の規定に基づきその関係を整理します。

ミャンマー連邦監査長官府

現在の監査長官制度は、植民地時代の1935年ビルマ法下において任命された監査長官が原型にあります。当時より、軍会計の管理官などいくつかの監査担当者が非公式の”監査サークル”を作っていたようです。

その後、1988年9月に成立したSLORCが、監査長官法を制定し、これにより政府関連組織の監査を担当する官庁が統合され、現在の監査長官制度が形成されました。この制度は、2008年憲法において分権化され、州stateと地域regionに14の監査長官を置いたうえで、連邦長官府が設置されています。その責任と権限には以下のようなものが含まれます(監査長官法第11条)。

  • 連邦政府予算に関連する収入支出を監査すること(11条b)
  • 連邦レベルの組織、官庁等のための会計制度の規定を整備すること(11条c)
  • MAC及びMICPAを監督すること(11条f)
  • 公認会計士が行った民間企業の監査を再監査すること(11条h)

ミャンマー会計評議会

1972年に初めて設置され、1994年にSLORC下において、会計・監査基準等の設定及び職業専門家への資格の付与や監督に係る権限が付与され、その基盤が出来上がったとされています。その責任と権限には以下のものが含まれます(ミャンマー会計評議会法第17条)。

  • 公認会計士等の養成講座を開設、開設の許可、管理及び監督すること(17条a)
  • 公認会計士等の養成講座のカリキュラムを設定すること(17条b)
  • 会計基準、監査基準、倫理基準など設定すること(17条d)
  • 公認会計士等に責任を課し、その活動成果を監督すること(17条i)
  • 政府の部局及び国営企業の会計に関する要件を助言すること(17条o)
  • 公認会計士等の責任を果たさず又は倫理基準を逸脱した公認会計士等を処分すること(17条p)

ミャンマー公認会計士協会

ミャンマー公認会計士協会は、2003年に、MAC監督下の職業会計専門家組織として設立されました。その責任と権限には以下のものが含まれます(ミャンマー会計評議会法第18)。

  • 会計に関する規定等について評議会に助言すること(18条b)
  • 会計に関する継続学習を促進すること(18条d)
  • 評議会より委任された業務を実施すること(19条c)

ミャンマー会計・監査制度の現状

上記の通り、公的部門の会計・監査については、独立前から、OAGU(及びその源流となる組織)が担当しており、その経済に占める割合を反映し、現在でも比較的大きな組織として活動しています。

Renaissance Institute と Natural Resource Governance Instituteによる2018年のレポートによれば、OAGUには約6000名の職員が在籍し、全ての国営企業が監査されています。一つのチームには約8名程度が参加し、通常15日程度かけて監査が実施されているとのことです。

一方、民間部門についても、1972年MAC法により、社会主義経済下における会計・監査の要請に応える観点からRegisterd Accountantの制度がありました。しかし、実質的には、市場経済化へ政策転換が行われた1988年以降に、喫緊の課題認識され始め、1994年MAC法の改正により、公認会計士資格制度が開始されたようです。

ただし、民間部門の会計・監査について、それまでの社会主義経済下における国営企業の会計・監査重視という流れから抜本的な離陸は図れなかったようです。MACは、OAGUの下に設立されかつOAGUの予算により活動し、更にOAGUがMACの事務局となることが規定されています。

また、MACにはそれほどの職員がいないようです。MACの職員数に言及している資料は見つけることができませんでしたが、組織図を見るとDivisionレベルのグループが3つある程度なので、職員数も限られていると考えられます。(OAGUの組織図はかなり複雑)また、MICPAに関しては、事務局に職員が8名在籍しているとされており、世界銀行(2017)においても常勤職員が6名であることが指摘されています。

AGU法、MAC法をチャートに落とし込むと以下のようになります。

(出典)筆者作成

小括

上記の通り、OAGUは歴史的に連邦政府や国営企業の会計・監査のために発達、活動してきた組織であり、民間企業の会計・監査に関して知識や興味があるわけではないと思われます。日本でいえば、会計検査院が民間企業の会計・監査を監督しているようなものです。もちろん、政府部門の経済に占める大きさが大きければ、問題はありません。しかしながら、今後、民間部門において更に会計・監査の需要が増大していくなか、MACやMICPAが、OAGUの指揮・予算の下で民間の会計・監査の発展に貢献していくのは相当困難だと思わざるを得ません。

また、OAGUは直接、連邦政府や国営企業の監査を行っています。一方、MACが行うのは、民間企業を監査する公認会計士を監督することです。公認会計士はMICPAのホームページによれば約4000名の資格保持者がいるようですが、MACやMICPAの常勤職員はそれに比べて極端に少ない状況です。こうした状況では、公認会計士の業務の質に対する監督が行き届いているはずもなく、世界銀行(2017)(パラ153)も、MACやMICPAによる会計基準の順守に関して全くモニタリングが行われていないことを指摘しています。

ここでは、会計基準そのものや人材育成といったミクロの話題ではなく、構造的な課題にフォーカスしました。今後、機会があればより視野を広げて調べて、上記主張について補強又は再検討してみたいと思います。

  • World Bank (2016), “Myanmar Economic Monitor”, May 2016.
  • World Bank (2017), “Myanmar – Report on Observance of Standards and Codes (ROSC) : accounting and auditing module” (English), June 2017.
  • Renaissance Institute and Natural Resource Governance Institute (2018), “SEE Reform in Myanmar: The Case of Natural Resource Enterprises”, Jan 2018
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