トランスファーワイズがもたらしたことを本当に理解するために

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トランスファーワイズがすごい

海外送金をする際には銀行にごっそり手数料を取られます。

でも、技術革新がそうした状況を根本的に変えようとしています。今、急速に存在感を増しているトランスファーワイズ(Transferwise)や類似サービスでは、発想の転換(実はそんなに転換したものでないことは以下で解説)をして、これまでの銀行送金では考えられないほど低料金で国際送金を可能にしています。

「銀行業界の大きな問題は透明性の欠如だ」。英国のフィンテック企業、トランスファーワイズの最高経営責任者(CEO)、クリスト・カーマン(39)は銀行の手数料構造を厳しく批判する。国際送金に価格破壊を起こした同社の手数料は平均0.7%。適用レートなどを加味すると、伝統的な銀行と比べて最大8分の1程度に抑えられる。母国とお金をやり取りしたい出稼ぎ労働者や移民、留学生などのニーズをつかみ、利用者は世界で700万人に達した。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59681980Y0A520C2TL3000/

銀行送金のコストはなぜ高いのか

そもそも銀行を通じた国際送金にコストがかかる、かかっていたのは、ざっくりいうと以下のような要素があるからです。

  • 送金側の銀行におけるチェックの手間
  • 着金側の銀行におけるチェックの手間
  • 送金側と着金側の銀行の間で仲介をする銀行におけるチェックの手間
  • これらの銀行相互で行う与信の費用

一つ目と二つ目では、送金者や受取人やそのお金が違法なものではないか、怪しくないかをチェック。

三つ目では、送金側、着金側、金額が間違いないかをシステムの結節点でいちいちチェック。

四つ目は、送金側の銀行、仲介銀行、着金側の銀行はそれぞれ銀行口座を持ち合い、与信し合う(つまり常にお金を預け合っている)必要がある(コルレス関係)ので、維持費用、与信費用が掛かります。

新しいサービスは、なぜコストが下げることができているか

トランスファーワイズや類似サービスでは、基本的に一つ目と二つ目は同じだけれど、三つ目と四つ目はITシステムを使ってかなり省略することに成功していると考えることができます。

つまり、下記の図のように、トランスファーワイズ自身が、送金側の銀行かつ仲介銀行かつ着金側の銀行になってしまうことで、上記の三つ目を相当効率化しています。

また、

例えば、英国のなかで、ポンドを送金したい人とポンドを受け取りたい人をマッチングし、ドイツのなかで、ユーロを受け取りたい人とユーロを送金したい人をマッチングして、マッチングしきれない金額だけを他の国際送金網で決済することで、四つ目も相当効率化しています。

(出典)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55391

つまり、世界中に散らばったトランスファーワイズに口座を開いた人たちが、ある日、(グロス)トータルで、『150ドル送金、150ドル受取、100ポンド送金、100ポンド受取、150ユーロ送金、150ユーロ受取』のお金のやり取りをするとき、ドルもポンドもユーロも送金と受取がネットでゼロなので、国際的な資金決済は生じず、国内の送金だけですべてが完了します。

この時、仮に、『150ドル送金、150ドル受取、100ポンド送金、100ポンド受取、150ユーロ送金、150ユーロ受取』が『*300ドル送金、150ドル受取、100ポンド送金、*200ポンド受取、150ユーロ送金、150ユーロ受取』だった場合、ネットでは、150ドル送金と100ポンド受取が残ります。

したがって、国際的な資金決済は、米国の普通の銀行に開設したトランスファーワイズの口座から150ドルを、英国の普通の銀行に開設したトランスファーワイズの口座に送金し、同口座に100ポンド以上の残高を増加させることにより行われます。

国際的な資金決済は、今のところ伝統的な金融システムを用いて行われている(つまり、銀行経由時には中銀を通じた送金サービス)ので、何度も多額に実行するとお金がかかります。

したがって、この新サービスを提供している会社にとって、全顧客の送金指示を効率よくマッチングすること、顧客に望ましい送金指示を出させるよう促すこともしくはそのような顧客層を戦略的に開拓していくことにより、以下の要素を最小化することが競争戦略になります。

  • 国際送金の合計額
  • 国際送金の合計回数
  • 各国の銀行に預けておくバッファー

新しいサービスは、何にコストがかかるか

上段で、「一つ目と二つ目では、送金者や受取人やそのお金が違法なものではないか、怪しくないかをチェック。」とした部分については、国ごとに規制は若干異なるものの、formalな送金であるためには、一定の基準に則ったチェックが必要なので、ここの作業自体はなくすことはできません。

顧客管理の部分に関しては、革新的なIT技術を用いて効率化するにせよ、既存の銀行でも同じ効率化はできるという意味で、新たなサービスだからコストが安いというものではないはずです。

顧客確認等の要請は、国際社会が、FATF(金融活動作業部会)という組織で議論して作り上げてきた、マネーローンダリングなど違法な用途に金融システムが使われないための原則が基にあります。顧客確認などを、提供するサービスのリスクに応じた厳格さで行うことが求められています。

例えば、日本では、100万円以下の送金のみを扱う場合には、それ以上の取引を行う場合と比べてリスクが低いので、銀行としての免許がなくてもよく、資金移動業者の登録をすれば、そうしたサービスを提供することができます。

実は、ミャンマーなどで見られるフンディ(”Hundi”)は同じ仕組み

ミャンマーだけでなく、同じようなサービスは原型が世界中に見られ、”Hundi”とか”Hawala”とか呼ばれています。

これは正規の銀行システムや今のような通信手段がない時から行われていた、個人的な信用や紐帯を元にして行われる、仕組みとしてはトランスファーワイズと全く同じ価値移転サービスです。

「フンディ」と呼ばれる資金移動サービスは、ヤンゴンのある雑貨屋の奥にいる女性によって営なまれている。彼女は袋いっぱいのチャット札と送金先の銀行口座番号を受け取り、米国にいる彼女の仲介人にその送金先に対する送金を指示する。

彼女の顧客は何もレシートは受け取らない:彼女の言葉だけが保証になる。この取引が違法かどうかはだれに問うかによるだろう。彼女に関しては少なくとも主に使えているだけだ。

彼女のサービスは米国に住むカチン族のクリスチャンが作り出したものだ。こうしたカチン族のクリスチャンは寄付や家族のためのお金をミャンマーに送りたかった。電話代以外に彼女が要求する手数料はない。

https://frontiermyanmar.net/en/transactions-of-trust-and-faith

この場合、前段でお金を米国で受け取る人がいて、後段でお金を米国から送金したい人がいることにより、米国内の送金側と受取側がマッチされています。もちろんすぐにマッチされる必要はなく、米国の彼女の「仲介人」が持つドルが尽きるまで、それが許容できる範囲では送金側と受取側がマッチされている必要はありません。

ただし、一方方向の取引が増えた場合、米国の彼女の「仲介人」のドルが尽きてしまう前に、ミャンマーから何らかの価値を実際に移転することでドルを補充する必要がります。これが国際的な資金決済に対応します。

つまり、彼女は、ミャンマーで受け取ったチャットを例えば金にして、これを誰かに米国の仲介人に持っていってもらうという形で米国に実際に価値を移転するかもしれません。(現代なら普通に銀行送金の方を選択するかもしれません)

途上国における新サービスの可能性:今の課題

ミャンマーでは、こうしたフンディ業者が多数存在し、非公式に多くの国際的な資金移動が行われていると言われています。これは、途上国一般と同じように、銀行などフォーマルな金融サービスへのアクセスを持たないため、彼らにとってほかに手段がないという理由や、フォーマルな銀行送金はお金や手間がかかるという理由が大きいようです。

一方で、こうした業者においては、顧客管理が十分に行われているか確認しようがないので、密貿易など違法な取引により生じた資金が、フンディシステムを用いて還流あるいは流通しているのではないか、といった点が国際社会や当局に心配されています。また、そもそも、詐欺行為が生じても当局による救済ができない、防止ができないため、今後ますます問題になっていく可能性があります。

その現在の規模についてはだれも本当のところはわからないのですが、密貿易額として推計する金額は参考になります。

例えば、私が、自動車をミャンマーに輸出する場合。タイ側の通関では本当の価値が補足されても何の問題もありませんが、ミャンマー側の通関で本当の価値が補足されると高額の輸入関税が課されます。なので、ミャンマー側の通関では過少申告するインセンティブが働きます。これが成功した場合、安い自動車を輸入しましたという証明を取れます。

しかし、その対価を輸出者である私に送金する段になると問題が生じます。ャンマー側ではとても低い価値のモノとされるので、その対価を正規の銀行で送金しようとすると、それに見合った金額の送金しか認めてもらえないかもしれないのです。そこでフンディの出番となるわけです。

ただし、これは一例ですし他にも、反対方向の密貿易など、対価を受け取る手段は色々あり得るはずなので単なる参考でしかありませんので留意してください。

密貿易額を推定する方法の一つが、公式の統計で補足されていないと考えられる貿易量を用いる方法です。上記例のように、タイ側の税関では300ドル分の商品と申告をして輸出し、ミャンマー側の税関では100ドル分の商品と嘘の申告をしているような場合です。

IMFのアジア版、ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)が昨年末出したレポートによれば、実際に、ミャンマー側で補足された輸入額に比べ、タイ側で補足されている輸出額が大幅に大きいことがわかっています。(下図)

(Source) Myanmar Annual Consultation Report 2019

また、対全貿易相手では、ミャンマー側が補足している輸出額は105億ドルなのに対し、貿易相手国の統計を元に推計すると実際の輸出額は130億ドル程度にのぼります。また、輸入については132億ドルが実際の輸入額は227億ドル程度に上ると推計されています。(2016年) 

もちろん、そもそも誰にも知られずに密輸している可能性などもあるのでこれは下限としてとらえるべきですが、2016年には、約25億ドル分の価値が密貿易を通じて外国に移転され、約95億ドル分の価値が密貿易を通じてミャンマーに移転されていると推計されます。こうしたモノの移動とは反対方向に資金を動かす需要があるということが重要です。

途上国における新サービスの可能性:まとめ

上記のように、ミャンマーでは相当な規模の資金がフンディネットワークを通じてやり取りされていると考えられます。そして、その裏には、黒いお金がある可能性がついて回っています。

これが放置されているのは、既存の銀行ではカバーできない人たちがいること、そもそも銀行の料金が高い、という理由があります。

しかし、トランスファーワイズなどの新しいサービスはこれらの課題に同時に対応できる可能性を秘めています。既に多くのサービスは、規制の枠組みの中でミャンマー内でサービスを展開していますが、まだまだ、末端にまで浸透しているわけではありません。

フンディは私的かつ小規模なネットワークにより無数に営まれている可能性が高く、そうした業者を正規のサービスが取って代わるには時間がかかると思います。

過渡期的には、例えば、フンディ業者自体がhttps://www.wavemoney.com.mm/https://www.onepay.com.mm/といったサービスにより最終的な国際資金決済をするということが起こる可能性が高いでしょう。ただし、その場合には、末端のフンディ業者による顧客確認をどこまで徹底するべきなのかよくよく考える必要がありそうです。

フンディ自体、昔から法の保護を受けずに自然発生的に生じているものなので、これ自体を禁止にすることは適切ではないですし、現実的に駆逐することはできません。新サービスの浸透し、これらによる金融包摂が一定の規模まで達した段階で、本格的な取り締まりを行うというのがミャンマーにとってバランスのとれたやり方なのではないかと思います。

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