2020年6月25日公表のMyanmar Economic Monitor(MEM)とWorld Development Indicators Databaseを元にした、ミャンマー経済概要です。世界銀行による今回のMEMは、コロナの影響に関する分析をしているのでそれは別の記事でまとめます。
2000年代の経済成長率は12.3%
ミャンマーは1988年から市場経済を志向する経済運営を開始しており、1990年ごろより民間経済活動が奨励され始めたことを背景に1990年代はなかなかの経済成長を実現しています。
1980年代の平均経済成長率は、なんと1.7%。それに対して、1990年代は平均6.1%の経済成長率を実現。さらに、2000年代にはなんと12.3%の経済成長を実現しています。
2011年の民政移管によって、海外との関係が強まり、投資も増え、経済が一層うまくいくようになったという一般的な認識があるような気がしますが、2010年代の経済成長率は、平均6.8%と落ち着いています。
ただし、2010年代以前の高く不安定なインフレ率をみると、以前は「安定的な」経済運営という観点からはあまりうまくいっていなかったようです。
なお、2010以降のインフレ率が安定している背景には、2008-9年の金融危機とそれに続く不況、民政移管後の海外との貿易取引増加、2012年4月からの為替改革があります。
2012年以前は、それ以後と比べるとほとんど鎖国状態だったようです。これは欧米特に米国の金融制裁によりドル決済に不都合があったことが大きかったはずです。また、為替改革によって、数十~数百倍の乖離があった公式と闇レートが一本化することで、自由な貿易が促進されました。
貿易取引が活性化し、国内で不足するものを輸入し、輸出できるものを輸出することで、国内市場の需給が安定化したのです。

2012年から貿易取引と対内投資が急増
2012年以降、対外取引が増加し、輸出・輸入が増加するとともに、対内直接投資が増加しています。対内直接投資は国内での生産を行うものがほとんどであり、そのために必要な機材や原材料の輸入が必要なことから、全体としては経常赤字の傾向となっています。
経常赤字は、超過輸入=超過ドル支払いだけであれば、ドルが不足する状況になりますが、上記の通り、こうした超過輸入は、主に対内直接投資をした企業が必要な機材や原材料を輸入することで起きている分です。対内直接投資のためにドルをミャンマーに持ち込んでいるので、プラスマイナスゼロ、ということで大きな問題にはなりません。(下図参照)

なお、為替レートは2012年の1ドル=800チャット程度から2018年には1ドル=1500チャット程度、チャットはかなり減価しています。
対外収支自体は上記図のように大体均衡しているため、この減価は、輸入超過など経常収支の赤字により引き起こされているというよりも、過去の高いインフレ率を引きずって未だ高位にあるインフレ率により、通貨の価値がかなりのスピードで減価してしまっていることが大きい可能性が高いです。
これはつまり、政府の財政収支赤字と、通貨当局であるミャンマー中央銀行がその分お金を印刷していること、そして、そうした政府や通貨当局をミャンマー国民が信用していないため、店頭でどんどんモノの価格を上げてしまっている、ということです。
1990年から現在まで高い成長を維持
1990年、2000年、2010年及び2018年の主要な経済指標を比較したのが下の表です。人口増加率は高くなく、2018年時点で5300万人程度。ここ30年間で14歳以下の人口割合がかなり減少しており、既に少子化が顕著ということができるかもしれません。
経済成長率については上で議論したように、特に2000年代から高い成長を維持しています。人口が増加していないことと相まって、一人当たりGDPは1990年の70ドル程度から1200ドル程度まで増加しています。
なお、1990年のドルレートは公式レートではなく、当時一般化していた闇為替市場でのレートの推計値を用いていますので、一人当たりが一年間で70ドルしか使えなかったということを普通にイメージした姿と大きな祖語はないものと思います。(もちろんミャンマーは農業国なので食べ物に関してそれでも困っていないと思われます)
産業構造についても、経済成長率の高かった2000年代から急激に変化し、2000年にはGDPの10%程度だった工業部門の生産は、2018年には38%まで高まっています。
FY1990 | FY2000 | FY2010 | FY2018 | |
人口 | 4134万人 | 4672万人 | 5060万人 | 5371万人 |
0~14歳の割合 | 37.6% | 32.5% | 30.0% | 26.4% |
15~64歳の割合 | 58.4% | 63.0% | 65.1% | 67.8% |
65歳以上の割合 | 4.0% | 4.5% | 4.8% | 5.8% |
名目GDP | 1519億Kyat | 2.55兆Kyat | 39.8兆Kyat | 105.3兆Kyat |
(ドルレート*1) | 50 kyat*2 | 500 kyat*2 | 861 kyat*3 | 1550 kyat*4 |
(参考:ドル換算) | 30億ドル | 51億ドル | 462億ドル | 679億ドル |
(参考:一人当たりGDP) | 72ドル | 109ドル | 913ドル | 1264ドル |
一次産業(対GDP%) | ― | 57% | 37% | 21% |
二次産業(対GDP%) | ― | 10% | 26% | 38% |
財サービス輸出(対GDP%) | ー | 1% | 20% | 30% |
財サービス輸入(対GDP%) | ― | 1% | 15% | 30% |
一人当たりODA純受取額 | 3.7ドル | 2.3ドル | 7.0ドル | 31.4ドル |
GDP成長率 | 2.8% | 13.7% | 9.6% | 6.8% |
インフレ率(GDP deflator) | 18.5% | 2.5% | 7.0% | 6.3% |
*2: Sean Turnell(2009) “Fiery Dragons” より。
*3: end of FY basis extracted from IMF’s 2013 Article Consultation,
*4: end of FY basis extracted from Central Bank of Myanmar
(Source) otherwise indicated, extracted from World Development Indicators Database
金融部門の成長は2010年代に始まった
金融部門についても、市場経済を志向し始めた1990年ごろより進展が始まっていますが、こちらについては、2002年後半から2003年にかけて起きた地場銀行への取り付け騒ぎや一連の銀行不安によって、いびつな成長過程を見せています。
1990年前半に民間銀行が多く設立され、民間銀行が、国民の預金を民間企業に貸し付けることが可能になりました。それまでは政府系金融機関しか存在せず、マネーストック(マネーサプライ)は政府系金融機関に預けられている国民の預金と国内に流通している現金の合計でした。それが、民間が銀行を設立し、独自に預金集めと貸出を行い始めたことで、経済において信用創造が徐々に大きくなってきました。
また、民間の経済活動も奨励されたことで、対民間への貸出総額は1990年に対GDP比で約5%だったものが、2000年には倍の約10%となりました。
しかし、2002年後半からの銀行危機により多くの預金が引き出され、民間企業への貸し出しも減少することとなりました。同時期の不景気の要因もあり、マネーストックも対民間信用も経済規模に比して減少してしまっています。
FY1990 | FY2000 | FY2010 | FY2018 | |
マネーストック: M2(対GDP%) | 27.9% | 31.5% | 23.6% | 52.6% |
対民間信用(対GDP%) | 4.7% | 9.5% | 4.7% | 25.0% |
預金金利 | 5.875 | 9.75 | 12 | 8 |
貸出金利 | 8 | 15.25 | 17 | 13 |
ミャンマーの金融部門は、全体として高い経済成長を実現していた1990年からの30年間のうち、最初の20年間でよい結果を出すことができませんでした。
ただし、2011年民政移管後に欧米の多くの制裁が撤廃されたこと、貿易取引の増大による決済需要の増加といった要因から、その後は急速なスピードで発展を見せています。2010年には対GDP比で約24%だったマネーストックは、2018年には倍以上の約53%にもなっています。
また、民間向け信用(貸出)も2010年に対GDP比約5%だったものが、25%にもなっています。
今後の経済成長見通しに加え、昨今の地場銀行の支店増加や外資銀行の参入を鑑みると、今後もこうしたスピードで金融部門が成長する蓋然性は高いと言えると思います。
他方で、こうした規模的な拡大に、金融部門の人材育成が間に合うのか、というのは課題になると考えられます。
おわり
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