ミャンマーの金融包摂の状況

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はじめに(Making Access Possible: MAPについて)

ミャンマーにおける金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)に向け、国連資本開発基金(UNCDF)などが、2014年からMaking Access Possible (MAP)というプロジェクトを実施しています。

MAPは、発展途上国における金融包摂を実現するためにエビデンスベース・対話重視で実施される、途上国政府・関係者への政策提言の枠組みです。

ミャンマーでは2013年と2018年に金融包摂に関連する詳細なフィールド調査(Finscope調査:口述)が行われ、政策提言が実施されています。

以下では、MAPより、ミャンマーの金融包摂の現状を紹介します。

正規金融サービスへのアクセス:48%

ミャンマーでは、正規の金融機関が提供する金融サービスにアクセス可能な人口の割合は、2018年時点で48%であると推定されています。これは、融資、預金、保険、送金の4種類の基本的な金融サービスのうち、一つでも正規な金融サービスへのアクセスがある人の割合を意味します。(Figure 6)

  • 正規金融サービスへのアクセス: 2013年:30% ⇒2018年:48%

融資、預金、保険、送金の4種類のうち、2018年時点で、正規サービスの利用者が多いのは、融資サービスとなっています。これは、ミャンマー農業開発銀行による農家向け少額融資及びマイクロファイナンス機関によるものがほとんどとなっています。(Figure 9)

また、同4種類のうち2種類以上へ正規アクセスを持つ割合は17%であると推定されています。

所得レベルが高いほど正規金融サービスへのアクセスは高い傾向があるものの、最も所得の高い層においては、むしろ銀行との取引が少なくなっており、比較的裕福な消費者へのニーズへ応えきれていない可能性があります。(Figure 10)

正規融資サービスへのアクセス:26%

正規・非正規を問わず借入をしている人の割合は、2013年と2018年で殆ど変わらない中、正規の融資サービスを受けている人の割合は2018年に26%に上昇。マイクロファイナンスの急発展により、銀行以外の金融機関で借り入れている人の割合が5%から12%に増加し、非正規の貸金業者の利用が減少しています。(figure 15)

  • 正規融資サービスへのアクセス: 2013年:18% ⇒2018年:26%

なお、銀行融資のほぼ全て(人数ベース)はミャンマー農業開発銀行(MADB)からのもので、2018年には420万人に借入残高があるとされています。ただし、同調査では同時に、この約半分は既に不良債権として償却、清算されているべきもので、実際には銀行融資へのアクセスがあるとは言えないと指摘されています。他方、こうしたMADBへの返済が滞った人でもマイクロファイナンス機関との取引がある場合はかなりあると指摘されています。

借入の規模については、平均借入残高が一番大きいのは民間銀行で5000USD程度。MADBやそれ以外は2000USD以下となっています。(Figure 16)

(注)融資サービスに関して正規/非正規の分類は以下:

  • 正規(Banked): 民間銀行又は国営銀行から借入経験がある者
  • 正規(Other Formal): マイクロファイナンス機関、信用組合、登録質屋
  • 非正規(informal): 雇用者、無登録貸付業者
  • 非正規(Family&Friends): 家族や友人からの借入

正規預金サービスへのアクセス:12%

正規・非正規を問わず貯蓄をしている人は2018年時点で50%程度である中、銀行やマイクロファイナンス機関で預金している人は12%しかいません。

  • 正規預金サービスへのアクセス: 2013年:6% ⇒2018年:12%

金、宝石、タンス預金がもっともポピュラーな貯蓄手段であり、全体の貯蓄額の75%がこうした非正規の手段によるものであると推定されています。

(注)預金サービスに関して正規/非正規の分類は以下:

  • 正規(Banked): 民間銀行又は国営銀行に口座での貯蓄
  • 正規(Other Formal): マイクロファイナンス機関に口座での貯蓄
  • 非正規(informal): 貯蓄貸付グループなどでの貯蓄、金や宝石類として保有、タンス預金

正規保険サービスへのアクセス:6%

国営又は民間保険会社が提供する保険サービスを利用しているのは2018年時点で6%のみ。そのほか10%がコミュニテー、家族、友人ベースの非正規な保険的手段を利用しています。

  • 正規保険サービスへのアクセス: 2013年:2% ⇒2018年:6%

依然として未発達な状況ですが、2019年の外資開放や並行して整備されている保険外務員などの活用の広がりにより、今後爆発的に利用が拡大していく可能性があります。

正規送金サービスへのアクセス:16%

正規・非正規を問わず何らかの送金サービスを利用しているのは、2018年時点で21%。正規サービスを利用しているのは16%となっています。全体の利用は2013年から若干減少していますが、内訳をみると非正規から正規への移動が見られ、例えば、hundis業者による送金者は140万人から50万人に減少したと指摘されています。(figure 20)

  • 正規送金サービスへのアクセス: 2013年:10% ⇒2018年:16%

2018年調査時点では、モバイルマネーサービス(Mobile Financial Services Provider: MFSP)の利用者は人口の4%のみ。しかし、正規MFSPの第一号であるYoma銀行系のWave Moneyは2016年に事業を開始し、2018年調査時点では既に2万1千人の代理人(農村部でも見られるキヨスクのおばちゃんがメインとみられる)を保有するなど、急速な発展が見込まれています。

(注)送金サービスに関して正規/非正規の分類は以下:

  • 正規(Banked): 民間銀行又は国営銀行における口座からの送金
  • 正規(Other Formal): MFSPやその他の送金業者(Western Union等)
  • 非正規(informal): Hundis業者、バスやタクシー運転手への依頼、家族や友人を通じた送金

まとめ:今後は金融包摂の深さを追求

金融包摂の指標としては、「一つ以上の種類の正規金融サービスへのアクセスがある者」の割合が使われることが一般的です。他方、MAPでは、金融包摂の「深さ」を表す、より多くの種類の正規金融サービスへのアクセスも重視しています。

この点、これまでMAPが実施された国のデータの分析により、「一つ以上の種類の正規金融サービスへのアクセスがある者」の割合が50%を超えたあたりから、金融包摂の深化が急速に始まる傾向があることが指摘されています。

ミャンマーでは2018年に48%ということで、このターニングポイントに差し掛かっていると言えるようです。今後は、融資、預金、保険、送金の複数の正規のサービスを利用する人を増やしていく局面となり、ミャンマーで既に活動する金融関係のプレイヤーにとっては、こうしたニーズをとらえていくことが効果的な戦略となるのではないでしょうか。

なお、融資サービスについては、かなり多くの援助機関が国営銀行や民間銀行の支援に乗り出していますし、マイクロファイナンスもまだまだ伸びている途中です。保険についても、外資参入と同時に多くの規制緩和により今後かなりの速度での発展が見込まれます。送金についても、現在、モバイルマネー業者が急速に発展中であり、また、主にマネロン規制上の要請から、Hundis業者など非正規業者の登録制への以降も始まっています。

しかしながら、預金サービスについては、他の3種のように有効な対策が打てていない状況にあると考えられます。正規預金サービスは、それ自体がより消費者に有利なショック緩衝材として重要である一方、信用創造を通じて経済発展のための資金的基盤を創造する重要な役割もあります。正規預金へのアクセスを改善するとともに、金、宝石、タンス預金を如何に正規預金へ導入できるかは、今後の経済発展、金融市場の発展のカギとなるはずです。

補足:MAPとFinscope

「金融包摂」は、比較的新しく、2010年のG20で大きく取り上げられ注目されるようになってきた概念です。関連する問題意識自体は昔からあり、貧困解決、経済発展のアプローチの一つとしてとらえられている。2006年のグラミン銀行・ユヌス氏のノーベル賞受賞で脚光を浴びたマイクロファイナンスの取組もその一つです。

MAPは、この「金融包摂」を進めるために、既に他の複数国でも実施されている、エビデンスベース・対話重視による途上国政府・関係者への政策提言の枠組みです。

その特徴として、FinMark Trust 及びCenfriという南アフリカベースの英国系開発援助シンクタンクが2002年から南アフリカで実施してきた、金融サービスに対する消費者の需要調査の枠組みがベースになっていることがあげられます。この枠組みを彼らはFinscopeと呼んでいます。

Finscopeとは、ざっくりいうと、融資、預金、保険、送金の4種類の金融サービスに対する、多様な顧客層それぞれの需要を調査し、当該国のサービス事業者、政策立案者および規制機関に情報提供し、金融システムの長期的な展望の変革を支援する取組です。FinMark TrustとCenfriは、UNCDFとパートナーシップを組み、MAPにおける現地調査の信頼性、他国での調査との比較可能性確保などに関して、技術アドバイザーとして参画しています。

ミャンマーでは、2013年のFinscope調査に基づき第1回目のMAP2014が公表され、2018年には、同年のFinscope調査に基づき、第2回目のMAP2018が公表されています。

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